« テープ起こしのための辞書検索(Google Chrome) | トップページ | URL変更のお願い »

2011年6月21日 (火)

テープ起こし仲間、Kさんを悼む

テープ起こしの仲間、横浜のKさんが3月に亡くなった。

「録音に同席する」のが信条だった。指示語の内容、話者のしぐさ、発言者順などをメモし、それを原稿に生かすためだと言っていた。

テープ起こしをする者たちの道標だったメーリングリスト「テープ★おこし太郎会」(2003年3月閉鎖)で知り合った。

私がHPを立ち上げたのは2000年。PCを持ちネットを使って「テープ起こし」を受注する人はまだ少なかった。

テープ起こしは孤独な作業である。言葉検索、パソコン不調時の対処、音声ファイル変換、雑音除去、音声関連アプリケーションの充実、音声データ・テープ起こし原稿・個人情報の秘密保持、クライアントとの交渉、契約、経理、税務、すべて一人でこなさなければいけない。このテープ起こしのメーリングリストは支えだった。

私は投稿した。「指定通りの文字数に収めた原稿を納品したら、クライアントに『僕の仕事も少しは残しておいてくださいよ』と言われた。校正が利くように文字数を多めに納品すればよかった」。

何日かして、ハンドルネーム「かすいどり」さんの投稿があった。「それって、褒め言葉ですよ」。

こんな投稿を返してくれるかすいどりさんってどんな人だろう、と思った。それまでも理路整然とした文章をしたためるかすいどりさんに興味があった。

そのかすいどりさんが、メーリングリストの名古屋の人たちが集まる初めての「中部オフ会」に横浜から参加してくれた。それが、Kさんとの出会いだった。

2006年4月19日付の「天声人語」に次のような一文がある。
作家の宮部みゆきさんは昔、速記者をしていたことがある。いわば自分を消すこの仕事を、ある対談で「忍びの世界」になぞらえていた。

「忍びの世界」に生きる私たちテープ起こし屋は、表舞台に出ることはほとんどない。

ところが、速記者が速記された冊子がある。「丹羽清隆『オーラルヒストリーとテープ起こし』(オーラルヒストリー方法論研究会シリーズ Vol 2、C.O.E.オーラル政策研究プロジェクト、2002年)」である。速記されたのはKさん。

Kさんは、1995年からテープ起こしの立場で、鈴木俊一氏、後藤田正晴氏、奥野誠亮氏、渡邉恒雄氏、竹下登氏など多くのオーラルヒストリーに携わっているために、研究素材として逆取材されたのだ。

その冊子の中で、Kさんはテープ起こしについて次のように語る。「録音状態が悪い、作業者が未知で起こせないのは改善できる。しかし、音声を文字にしたときに改善・回避が望めない言語化作業そのものが担う宿命がある。それは、消えてしまうもの加えられるもの構造が変わってしまうものだ」と。

消えてしまうもの」としては、1.言語以外の音(抑揚、高低、アクセント、語尾の高低)、2.間、沈黙、表情、身ぶり・手ぶり、指示された対象、3.空気、雰囲気。

加えられるもの」としては、1.漢字、かな、数字、アルファベットなどの文字情報、2.句読点、記号、段落、見出し、発言者名、3.省略部分。

構造が変わってしまうもの」としては、話し言葉を書き言葉に変えるため、語順の入れ替え、余計なものの削除、必要なものの付加。

悩むこととして次のことを挙げている。
臨場感と雰囲気を出す起こし方を希望された場合、話し言葉の文法的な矛盾をどう解決させるか。「ですけれどもね」「ね」「よね」を残しておくか、つけておくか。「やっちゃった」などの口語的な言葉の崩れをどのように処理するか。本や記事の引用部分に話者が意見を挟んで話している場合、どう原稿に起こすか。

冊子の「質疑応答」で、C.O.E.オーラル政策研究プロジェクトリーダーの御厨貴氏がKさんを心配されている。「会うたびに痩せてこられるし、……、鶴の恩返しじゃないけど、どうもご自分で自分の羽を紡いでいるのではないかと……」。

国会議員会館、事務所などに有名人を伺っての録音やメモは、さぞかし緊張や気遣いもされたことと私は思う。さらに、テープ起こしという仕事にキリというものはない。Kさんのような人は、睡眠時間を削る以外に自分を納得させ得る仕事はできない気がする。

夫の転勤に伴い東京に転居したときに、東京のテープ起こし仲間と一緒にとてもステキな歓迎会をしてくださった。

テープ起こしで知り合った人たちの写真アルバムを大事に持っておられた。新宿の居酒屋で中部オフの有志が集まった写真。あれも持ってくださっていたのだろうか。「写真写りがよすぎる」と憎まれ口をたたいたはしゃぎ声が今も耳に残る。

「かすいどり」はヨタカの別名。宮沢賢治の『よだかの星』は、燐の火のような青い美しい光になって、静かに燃えています。……。いつまでもいつまでも燃えつづけました。今でもまだ燃えています。

keyword:テープ起こし,音声起こし,オーラルヒストリー,かすいどり

musicリンク
日本語テープ起こし 英語テープ起こし 翻訳 テープ起こしプロたち ICレコーダーのテープ起こし 裁判反訳


« テープ起こしのための辞書検索(Google Chrome) | トップページ | URL変更のお願い »